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9月1日前後の72時間が子ども自殺のピーク SOSの「受け取り方」に変化を

石井志昂『不登校新聞』代表
教室(イメージ)(写真:アフロ)

 昨年12月、大津市がいじめに関するアンケート調査結果を発表し、初めていじめにおける「月別の発生件数」が明らかになった。調査によれば、いじめを受けた者のうち、約3割が「とくにいじめを強く受けた時期」として「9月」を挙げた。一方、9月といえば「9月1日」を頂点として子どもの自殺が最も多い時期である。子どもの命を考えるうえでは、9月はそのリスクが1年を通じてもっとも高い時期と言える。いじめや「死にたい」と思う子どもに対し何ができるのか。児童精神科医や不登校経験者への取材を通じて「SOS(気持ち)の受け取り方」の重要性を考える。

いじめは9月がピーク

 大津市のいじめに関するアンケート調査の回答者は市内の小学生4年生~中学3年生の4836人。質問項目はいじめの有無や発生時期など。

 「いじめを受けた」と答えた者は4836人中573人(11.5%)。いじめを受けた者のうち、「とくにいじめを強く受けた時期」として「9月」を挙げた者は182人(31.8%)で、1年間のうちでもっとも多かった(複数回答可)。

いじめを受けた時期に関する小中学生の回答結果
いじめを受けた時期に関する小中学生の回答結果

 国の調査ではいじめの時期にまでは言及しておらず、月別の発生件数が判明したのは初めてのこと。

 9月のいじめ増加について、心理カウンセラー・内田良子さんは「夏休み明けは学校が始まってどの子にとってもストレスがたまる時期。さらに学校行事の影響で部活動がなくなるなどストレスの発散場もなく、いじめが起きやすい」と指摘する。

夏休み明け前後に集中

 一方、前述したとおり、全国的に2学期初日が重なる「9月1日」は子どもの自殺がもっとも多い日である。

 2015年に内閣府が発表した「自殺対策白書」によれば、過去40年間の18歳以下の累計日別自殺者数は、9月1日(131人/年間1位)、9月2日(94人/年間4位)、8月31日(92人/年間5位)と夏休み明け前後に集中している。

18歳以下の日別累計自殺者数
18歳以下の日別累計自殺者数

 また、40歳未満の者が自殺に追い込まれやすい時間帯は午前0時台にピークになることもわかっている。つまり、本日(8月30日)の深夜0時から72時間が年間を通して子ども自殺のピークだと言える。

 児童精神科医の高岡健さんは、周囲に悟られずにいじめを受けている子や自殺リスクが高まっている子どもの前兆(SOS)として、夏休み明け前から「宿題が手につかない」「体調不良を訴える」「学校へ行きたがらない」などの言動が見られるという。高岡さんは「一見ささいな言動にも見えるが本人の気持ちを軽視してはならない」と警鐘を鳴らす。

気持ちが軽視されるという二重苦

 学校で苦しむ子どもに取材をするなかでは「本人の気持ちを軽視してはならない」というメッセージが早急に広がる必要性は感じる。

 昨年、ある女子中学生は同級生からのいじめに耐え切れず、教師に相談したものの「ウソをつくな」と言われ、ショックを受けて不登校になった。

 また、ある男子中学生は、教師からのいじめや校則に不満を感じて不登校をした。しかし親や学校から「なぜ学校へ行けないのか」と責められる日が続き「学校に問題があるのに、学校を休んだ僕が問題にされるのはなぜなんだ」と悔しい気持ちを語った。

 学校で傷つけられたうえで、さらに本人の気持ちが軽視され、傷を深めるという二重苦が現実では起きている。

聞くことが解決の一歩に

 苦しさを抱える子どもに対して周囲には何ができるのか。年間20万件の子どもの電話相談を受ける「NPO法人チャイルドライン」では「聴くこと(傾聴)」によって本人の気持ちに寄り添う支援をしている。

 チャイルドラインでは、子どもが話すことに対して、話をさえぎらず、最後まで聞く。なぜ「聴く」ことに徹底するのかと言えば主に3つの理由がある。

1.はじめに話す内容と本人の本音がちがうこともあり、まずはしっかり話を聴くことが大切。

2話すことで気持ちが整理されるため。

3. 「わかってほしい」という気持ちを受けとめるため。

話をするなかで気持ちが整理され、その気持ちが受けとめられることで「大人の理解者もいる」と思うことができる。こうした過程が「解決のための一歩になる」とチャイルドライン向井事務局長は言う。

 第三者は冷静であるぶん解決を急ぐが、困っている本人にとっては、まず気持ちが受けとめられることが必要だ。こうした「聴く(傾聴)支援」はチャイルドラインだけでなく、多くの子ども支援の場でも行なわれている。

自分を救いたいと思えるには

 現在25歳の女性は、離婚や家庭崩壊といった複雑な家庭環境のうえに友人関係のトラブルが重なり、中学2年生で不登校になった。

 抱える問題や苦しさについて彼女は、両親、親戚、担任教師、養護教員、スクールカウンセラーなどに相談したが「誰も気持ちを理解してくれる人はいなかった」と言う。

 彼女は祖母のすすめで不登校の子が集まるフリースクールへ入会。フリースクールで「やっと私の側に立って理解してくれる大人と出会えた」と話す。これまで出会ってきた大人は、彼女の話を途中でさえぎり、矢継ぎ早にアドバイスをしてくるため「聞いていて苦しかった」と言う。

 人は共感されて初めて気持ちが救われる。自分の気持ちが救われてこそ「自分を救いたいと思える」と彼女は言う。自分を救う第一歩への支援、その視点が彼女のまわりにはなかったのだろう。

 現在、彼女はフリースクールを退会後、児童厚生施設で働いている。周囲の気持ち(SOS)の受け取り方によって本人の状況が大きく変わったケースであった。

SOSの受け取り方を

 夏休み明けの時期に私たちが考えなければいけないのは、子どもの自殺だけではないだろう。自殺は子どもたちを取り巻く状況の一端を示しているにすぎない。いじめへの不安などがあり学校に苦しさを感じる子は、その何倍もいる。私が編集長を務めている『不登校新聞』も子ども関連の支援団体と連名で新たなメッセージを配信した。

 周囲の子どもからSOSを感じた場合、まずはその思いを軽視しないでもらえればと思う。子どもからすれば「この人ならばわかってくれるかもしれない」とワラにもすがる気持ちでSOSを発したのかもしれない。であれば、その思いを途中でさえぎらず、最後まで聞いてほしい。子どもが欲しているのは即時解決とはかぎらない。つらさに共感してくれるだけでも気持ちが和らぐことがある。そうした「SOSの受け取り方」があるということを頭の隅に置いてもらえると幸いである。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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